背景
Windows OS は定期的な更新(Windows Update)によって 脆弱性修正・品質改善を継続することを前提に設計されています。
しかし現場では次のような声が聞かれます:
「Windows Update を適用できない」
「アップデート前のテストが必須で、実運用に回せない」
本記事では、こうした状況を 技術的/運用的側面 に分けて整理し、“本当に更新できないケース” と “更新したくない/できないと言われる原因” を明確にします。
1. 多くのアプリは、Update で壊れない
まず大前提として、一般的な業務アプリがWindows Updateで壊れることは稀です。理由は以下の通りです:
- Windows の互換性設計
- Windows は後方互換性を重視しており、公式 API を使っている限り、OS 更新でアプリが壊れる可能性は極めて低いです。
- 非推奨 API であっても、即時削除されることはありません。
- Windows Side-by-Side(SxS)によるライブラリの管理
同じ名前のライブラリやコンポーネントの「複数バージョン」を同時に共存させるための仕組みがあり、一方のバージョン上書きが別アプリに悪影響を与えるリスクを軽減しています。 - ユーザーモードとカーネルモードの分離
通常のアプリはユーザーモードで動作し、OS カーネル内部の変更の影響を直接受けません。 - Windows Update の設計方針
セキュリティパッチや機能更新は、既存アプリが動作し続けることを前提に行われます。Microsoftは、企業向けに「互換性テスト」を行い、重大な互換性問題がないことを確認してから配信を実施しています。 - 開発言語の公式ランタイムとフレームワークの互換性保証
- C/C++(Win32 API)
→ Win32 API は後方互換性を非常に重視しており、既存の関数は削除されず、非推奨になっても長期間利用可能。 - .NET Framework / .NET Core / .NET 6+
→ CLR(Common Language Runtime)はバージョン間で互換性を維持。新機能は追加されるが、既存 API は壊れない。 - Java
→ JVM(Java Virtual Machine) 上で動作するため、Java のコードを OS やハードウェアに依存しておらず、Windows Update の影響はほぼゼロ。 - Python、Node.js などスクリプト言語
→ OS API を直接呼び出すことは稀であり、Windows Update の影響を受けにくい設計。
- C/C++(Win32 API)
したがって、“Windows Update で致命的に壊れるから使えない” という主張は、基本的には設計上の誤解、または運用上の誤解に由来します。
2. 「Update ができない」と言われる理由は、技術要因だけではない
ここでいう「Update ができない」とは、単に適用できないだけでなく、更新をためらわれる理由を含みます。
2.1 本当に “技術的に壊れやすい” パターン(要注意)
通次のような設計のアプリは、更新で影響を受けやすく、結果として「Update を避けたい」という圧が生まれます。
- Windows SxS に対応していない Windows XP 時代の設計アプリ
- マニフェストがないので SxS が無効
- 必要とするライブラリを アプリのフォルダー、System32、System、Windows、Path の順に検索
- Windows Update で ライブラリの上書きの影響を受けクラッシュ
- カーネルモードドライバ依存
- ストレージ、セキュリティ製品、特殊I/O、仮想化、独自デバイス等
- 非公開 API / undocumented な挙動への依存
- 内部構造・タイミング・副作用前提
- 古いサポート切れミドルウェアやランタイムに固定
- 古い .NET / VC++ ランタイム、古いブラウザコンポーネント依存など
- OS のセキュリティ強化と衝突
- 署名要件、ドライバブロック、暗号スイート、SMB/NTLM/LSA 周りの強化等
- インストーラや更新処理が脆い
- パス固定、権限前提、Temp/プロファイル前提、サービス制御が雑、など
これらは “設計上の欠陥や時代遅れ” が原因であり、OS の更新機構そのものが悪い訳ではありません。
2.2 “技術” ではなく “運用” で止まっているパターン
次に、実際には技術的に更新可能であっても、現場で更新が止まってしまうケースです。
- 停止できない(ダウンタイムが取れない)
- 24/365前提、夜間停止すら許されない
- 検証環境が無い/小さい
- 本番同等のテスト環境を持てず、回帰試験が形式化しがち
- 変更管理が重い
- 承認フローが過剰、責任分界が曖昧で誰も承認したがらない
- 閉域網で更新搬入が大変
- WSUS/オフライン適用/媒体搬入の手順が未整備
- ベンダーの保守契約・保証条件
- 「この KB まで」「このビルドまで」等の制約
この場合、問題の本質は「Windows Update」ではなく、運用設計(止め方・検証・ロールバック・承認)にあります。
3. 「Update を避ける」ことが作る、現実のセキュリティ負債
Update を止めると、脆弱性が時間とともに積み上がり、次の状況になります。
- 既知脆弱性が長期露出し、侵入リスクが上がる
- 周辺製品(ウイルス対策ソフト/ EDR、ブラウザ、VPN、ドライバ)のサポート条件から外れていく
- “閉域だから安全” という前提が崩れた瞬間(USB、VPN 接続)に被害が拡大する
- 結果として、ネットワーク隔離・通信制限・監視強化など別コストが増える
つまり、「Update できない」は多くの場合、長期的な運用リスクとコスト増を意味します。
4. “できない” を “できる” に変える現実解(推奨運用)
Windows Update の運用を阻む要素を分解すると、設計と運用の両面で改善余地があります。
設計面
- アプリは公式 API を利用(SxS 対応)
- カーネル依存コンポーネントは最新化
- インストーラ/更新処理を堅牢化
運用面
同日同時期一斉 Update は市内で、段階的に適用を行います。
- 適用リング(段階展開)
- Ring 0(検証):IT部門・検証端末
- Ring 1(先行):影響が出てもリカバリ容易な部門
- Ring 2(本番):大多数
- Ring 3(慎重):止めにくい端末・特殊アプリ(ただし“無期限停止”は禁止)
- ロールバック設計
- スナップショット/イメージ復旧(仮想基盤なら特に有効)
- 重要端末は「復旧手順」まで含めて変更管理する
- 閉域網の場合
- WSUS / オフライン配布(CAB/SSU/LCU手順)を標準化
- 搬入媒体・検証・適用の責任分界を明確化(ここが曖昧だと永久停止になる)
まとめ
- 多くのアプリは、公式 API と一般的な作法に従っていれば Windows Update で致命的に壊れません。
- 「Update できない」の背景には、設計上の問題(ドライバ/非公開依存/既にサポート切れ)と、運用上の問題(止められない/検証できない/承認できない)が混在します。
- Update を止めることは、脆弱性を放置し続けることと同義であり、長期的には隔離・監視・制限など別コストを増やします。
- 現実的な解は、段階展開(リング)とロールバック設計、閉域網の搬入手順の標準化です。
